ほっとするお灸の暖かさ

渡辺克敬(わたなべ かつゆき)

2015年01月06日 23:50

 「月日は百代の過客にして、いきかふ年も又旅人なり。・・・・・・・股引の破れをつづり、
笠の緒付けかへて、三里に灸すうるより、松島の月まづ心にかかりて・・・」
~松尾芭蕉の「おくのほそ道」の序章です。旅支度の1つに、足の三里にお灸をする事が書かれています。「足の三里」は膝の下の外側にあるツボの名前です。ここにお灸をすると健脚になるという事で、旅の前に準備をしています。実際の登山の前に、2週間くらい前から何回か三里にお灸をしたことがあります。そうすると、以前のお灸をしていない時と比べて、足が楽であったのを私も経験したことがあります。昔の旅は自分の足だけが頼りですから、しっかりと足の準備もしたのですね。このように、お灸は昔から人々の生活に密着して存在していました。
 安藤広重の「木曽街道六十九次之内柏原」には、「かめや」という もぐさ屋が描かれています。この「かめや」さんは、今も営業しているそうです。昔は今と比べると、お灸や艾(もぐさ)は特別な物ではなかったのです。私の祖母も、私が子供の時に自分でお灸をしていた記憶があります。また、特に関西では、今もお灸を「やいと」といって親しまれています。

 お灸に使うものは艾です。艾は蓬から作られます。草餅に使われる蓬です。5・6月頃に蓬の若葉を刈取り、陰干しして良く乾燥させます。その後に、石臼などでついて綿状にしたものが艾です。良い艾は淡黄色で柔かく、火をつけた時の温度が低いものです。温度が低く皮膚への浸透が良いので、まったりした温熱感、と形容されます。
お灸というと人によっては、かちかち山のような煙と火の塊を想像するかもしれません。しかし、お灸にもいろいろあります。お米の半分ほどの艾で、瞬間にチクッとするだけで後には心地よい暖かさが残る~うちで行っているお灸はそういったお灸です。特にこの冬の寒い時期には、背中や足のお灸は終わった後のポカポカ感がありがたく感じられます。胃腸の不調や腰肩の痛みなどにお灸をすると意外と効果的で気持ちの良いものです。