自律神経四方山話

渡辺克敬(わたなべ かつゆき)

2015年01月16日 00:10

人の神経系には、①中枢神経(脳と脊髄)と ②末梢神経 があります。
末梢神経の中に ①知覚神経 ②運動神経 ③自律神経があります。
自律神経は内臓などに命令を送っている神経です。自律神経は意図的に制御する事が出来ないものです。手足は意図的に動かすことが出来ますが、意図的に胃を動かしたりホルモンを分泌させたりはできません。これが自律神経と呼ばれる所以です。

 自律神経には ①交感神経 と ②副交感神経 があります。交感神経と副交感神経は正反対の作用を持っています。
 交感神経はエネルギーを消費して、身体を攻撃的な方向に向けます。副交感神経はエネルギーを
蓄積して、身体を休息の方向に向けます。交感神経優位の時とは、例えは戦闘時の状態です。瞳孔は散大して心拍は増加して血管は収縮します。そして戦闘に用のない消化器の活動は抑制されます。
副交感神経優位の状態は、リラックスして自宅で寛いでいる状態です。

 自律神経を切除した動物でも、実験室の環境内では生存に大きな問題は起こりません。食事が保障されて、気温が快適にコントロールされて、敵対するものがいない状態では、自律神経が無くてもほとんど困りません。
 しかし、実際の生活では、暑い寒いがあり、走ったり跳んだり、騙したり騙されたり、戦ったり逃げたりと、身体の状態が大きな変化に曝されます。そこをうまく調整して、身体が健全に活動していけるように調整しているのが自律神経です。いわゆる自律神経失調症はそうした調整機能が崩れた状態です。おなかが痛くなったり、逆上せや冷えといった状態から、カスミ眼や立ちくらみ等多彩な症状があります。
 そうした自律神経の不具合を調整する方法として手軽なものが、冷水摩擦や乾布摩擦です。皮膚への寒冷刺激や物理的刺激が自律神経を上手く刺激して、交感神経と副交感神経のバランスのとれた活動を促進します。自律神経が関係した眩暈などでは乾布摩擦が推奨されています。

 そして、当然、太極拳は自律神経の調整に多大な効果を与えます。月に1度くらい不調で寝込んでいたのが、太極拳で良くなった、という人もいました。
太極拳は身体的には副交感神経優位の状態を保とうとしています。リラックスする事で気の流れを良くする為です。しかし心理的にはかなりの意図的な努力とめまぐるしい精神活動が必要で、交感神経優位の状況と言えます。また、身体状況もただリラックスしている訳ではありません。攻撃の形を取った瞬間は短時間、交感神経優位の状態が出現するともいえます。
 そのようにして、型を練習する中で、交感神経と副交感神経が微妙に混在して変転していく事が
大切です。言い換えれば、陰陽の変化・虚実の変化です。
太極拳は、穏やかな天界の昼下がりに、修羅が見え隠れする武術のようですね。


関連記事